『肖像の残滓 ~Suicide Corporation~』
彼女が通されたマンションの一室にはモノがひとつとしてなく、
ただ一枚、薄汚れた壁に飾られた肖像画のみが、彼女の視界を掌握していた。
いつのまにか彼女の背後に佇んでいた男は視線を合わせるとすぐ、
混濁した流水のように言葉を並べる。弁舌に冨み、軽妙洒脱に韻律を刻む男の口調は、たちまち彼女を虜にした。
「たとえば僕が君の書き記した手帳に触れるならば、君の身に起こったあらゆる事象が僕の脳内に留められることになる。それはあらゆる英知。ほとばしる激情。過ぎ去った追憶でさえも。僕は…、人の記憶のすべてを知ることが出来る。」
彼女は男の激情を解き放つためにそのそばに立つ。
あらゆるモノを考察し、創作しつくしたレオナルド・ダ・ヴィンチに対して、その知ではなく彼の感受性に思いを馳せる。その数多の作品に対して、どれほどの激情を残してきたか。また、彼がこの世を去るとき、果たしてその激情を出し尽くす事ができただろうか。
現代のダ・ヴィンチたちに捧ぐ。 いまわの際の激情、塵一つ残さず解放せん。






